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アイビー便り

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本当は怖いかもしれない、自分らしさ

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こんにちは、アイビー院長です。

 

前回から続いて「自分らしさ」≒ 自己についてのお話です。

今回ホラー?も少し入って長いのですが私には印象深かったのでご紹介します。

 

分析心理学の開祖であるユングは、分析家になりたいというものに以下のように言っています。

 

まずあなたが自分自身を知ることを学ばねばなりません。もしあなたが正しくないとすれば、

どうしてあなたは患者を正しくすることができますか。もしあなたが確信していないとすれば、

どうして患者を確信させることができますか。そのためにはまず自分自身の分析(教育分析)を

受け入れなければならないのです。

 

 

ある医者がユングのところに来て分析家になりたいと望みました。彼は正常な仕事、正常な成功、

正常な妻、正常な子供たちをもち、正常な小さな町の正常なかわいらしい家に住み、正常な収入

があり、恐らくは正常な食物をとっていた、とユングは述べています

 

ユングが自分自身の分析を受けるよう男(医師)に言うと

 

男は、「そのとおりだ」と言ってすぐに次のことを付け加えました。

「私にはあなたにお話しするような問題などありません」

 

ユング「よろしい、じゃあ私たちはあなたの夢を調べてみましょう」

 

男「私は夢なぞみません」 ユング「そのうちみますよ」

 

他の人なら誰もが恐らくその夜は夢をみたであろうに、男は全く夢を思い出すことが出来ずに

いました。

 

そのまま約2週間たち、ついに印象的な夢が現れました。

 

男は自分が鉄道で旅行している夢をみました。列車はある町で2時間停車します。

彼はその町を知らなかったので、どこか見物しようと思い、町の中央に向かって出発しました。

そこで彼はたぶん公会堂と思われる中世風の建物を見つけ中に入ります。

 

彼は長い廊下をあちこち見回りながら降りていき、不意に壁に古画とすばらしいつづれ織りが

ずっと並んでかけてある美しい部屋に出くわしました。あたりには高価な骨董品が並べてあります。

 

突然彼はあたりが暗くなり太陽が沈んだのを見たので鉄道の駅に帰らねばと思いました。

 

このとき彼は自分が道に迷い、もう出口がどこかわからないのに気がついたのです。

彼は驚きあわてて出発し、同時にこの建物の中で一人の人にも会わなかったことに気がつきました。

彼は不安となり、誰かに偶然に会うことを期待して歩みを速めましたが、結局誰にも会いませんでした。

 

それから彼は大きなドアのところにやって来、あれが出口だと考えて安心しました。

ドアをあけたとき、とてつもなく大きな部屋に行きあたったことに気づきました。部屋は

大きく暗かったので、彼は向かい側の壁を見ることさえできません。心底から驚き、むこう側に出口が

みつかるかもしれないと期待して、彼は大きな空っぽの部屋を走って横切ろうとしました。

そのとき彼は部屋のちょうど中央の床の上に何か白いものがあるのをみたのです。

近づくにつれて彼はそれが2歳くらいの精神薄弱の子供だということに気が付きました。

赤ん坊は尿瓶の上に坐り排泄物で汚れていました。そのとき、彼は叫び声をあげ、

パニック状態になって目を覚ましたのです。

 

 

ユングはこの夢から知らなければならないすべてのことを知ったと言っています。

―これはなんと潜在精神病であった!私は彼をこの夢の外へ誘い出そうとして汗したと言わねばならない。

 

ユングの夢の見立ては以下のようなものです。

 

彼が始めた旅行はチューリッヒへの旅である。彼はそこに留るのであるが、それもほんの

短い間のことである。部屋の中央にいる子供は2歳児としての彼である。子供では、

あんな異様な行動はふつうとは言えないが、なおその可能性はある。彼らは色がついていて、

奇妙な臭いのする自分たちの排泄物に興味をそそられる。

町で、それも厳しく育てられると、子供たちはそうした失敗に容易に罪の意識を感じるのかもしれない。

 

けれども夢をみた医者は断じて子供ではなかった。彼は大人であった。

それゆえ部屋の中央での夢のイメージは不吉のシンボルである。彼が私に夢を語ったとき、

私は彼の正常さは補償であることを悟った。私は彼をきわどいときにちょうど折よくつかまえたのであった。

というのは、潜在精神病が間一髪で突発し、徴候が現れるところだったから。

 

 

ユングは何とか彼の教育分析を終わりにする口実を見つけ出すのに成功しました。

診断を伝えることはしませんでしたが、彼は自分が今にも運命的なパニックに陥ろうとしていることに

気づいていたと思われました。というのは、物騒な狂人に追いかけられている夢をみたからです。

彼はその直後に家に帰り、二度と無意識をかきたてはしませんでした。

 

ユングは、彼の著しく目立つ正常さはおそらくは発達が遅れていて、無意識との対決によって簡単に

損なわれてしまうであろう人格を反映していたのであろうとも述べています。

 

このエピソードでユングが述べたかったのは、これら潜在精神病者たちは認めるのが非常に難しいので、

分析には長く徹底した訓練と、わずかな人しかもっていない広い教養が必要であるということでした。

 

 

私が思ったのは、この医師の自分らしさとは、補償されたこれまでの(正常な)姿なのか、

それとも(未然に防ぐことのできた)精神病を発症したものなのか、ということです。

 

己を知るということは、ある意味怖いのかもしれないですね。

 

われわれが自分らしくいられる自宅で過ごしたいと言うのは、新しい環境への適応が困難となった

老化の一側面を見ているだけなのかもしれません。

 

 

 

参照文献:ヤッフェ編 河合隼雄・藤縄昭・出井淑子訳

ユング自伝1 ―思い出・夢・思想― みすず書房 1972年